ネッシー実在と絶滅について

 

 13日の金曜日なのでミステリアス・ストーリー。

 

 この間、「インバネスのベーコンエッグ」という話を書いたので、それに関連してネッシーの登場です。

 

 「いまどき、ネッシーがミステリーかよ、この20世紀の化石野郎!」

 と、つっこまれるかもしれませんが、「インバネス~~」でも書いたように、あの頃――今から30年ほど前は明らかに、人々の心の中にネッシーは実在していました。


 この写真を見て、

 「本当だ、湖面からネッシーの首が出ている。いるんだ、やつはやっぱりネス湖に生息しているんだ!」

 と、世界の半分くらいの人たちは信じていたのです。

 

 ちなみにこの写真が撮られたのは、1934年4月の早朝。

 日本でいえば昭和9年。

 撮影者=目撃者は、ウィルソンという外科医。

 なのでこれは通称「外科医の写真」として、世界で最も有名なネッシーの目撃写真として世間に流通していました。

 

 ポイントは撮影者の職業です。

 外科医(というのは間違いで、実は産婦人科医だったらしいのですが)=医師。
 1934年の医師といえば、今と違って、社会的地位がとびきり高く、圧倒的な信頼度を持った存在だったのでしょう。


 「医師が見たと言って、写真まで撮っているのだから間違いあるまい」とみんなが思ったのです。

 これがほかの職業の人だったら、ここまで信じられなかったでしょう。

 

 以後60年間、僕をはじめ、世界中の人々の心の湖水の中をネッシーは悠々と泳ぎまわっていたわけですが、その存在が――外科医の写真の信頼が見事に裏切られる日がやってきました。


 それが1994年3月のこと。写真発表から60年――

 還暦を迎える直前に、「あの写真はウソだったんだよーん」と、この「ネッシー証拠写真ねつ造プロジェクト」の首謀者が臨終の間際に、まさしくスワンソングのごとく言い残して、この世を去ったというのです。


 医師を主役に立てたこのプロジェクト。

 その背景には、それぞれの人たちの奥深い人間ドラマがありそうですが、そこを突っ込みだすときりがないので、その考察と妄想はまたの機会に。

 ・・・てなわけで、1994年のその日、ネッシーは絶滅したのです。

 

 

 不思議なものです。今ならこの写真を見せて

 「これ恐竜の首だよ」と言ったところで、

 「どこが?おまえ、目がおかしいんじゃないの?」

 と切り返されるのがオチですが、1934年から60年間、人々の目には――というか脳には、これが湖面から突き出した、数メートルにもおよぶ恐竜の首に見えたんですね。

 やはり、その時代に限ってはネッシーは実在していたのだ、と考えざるをません。

 

 おまけの話ですが、僕はこの写真がウソだった、と大々的に報じられた日のことをよく覚えています。スポーツ新聞はもちろんですが、普通の新聞でもかなり大きく紙面を割いていました。


 そして、どこかの新聞に、この事件(まさしく20世紀の一大事件だったのです!)について、池田湖(鹿児島県指宿市)の観光課の課長のコメントが載っていました。その一言が忘れられない。

 

 「ネッシーは残念でした。

 しかし皆さん、ご安心ください。

 イッシ一は間違いありません」

 

 さすが観光課長!その力強いコメントにぼくは心打たれました。命あるかぎり、永遠に残るでしょう。


 ネッシーもイッシーも、まだ地域の観光ビジネスに貢献できているのだろうか? 

 

 そしてまた、この21世紀に彼らが絶滅の淵からよみがえることはあり得るのだろうか?