村上春樹の初期の短編「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」について

 

 4月になったので村上春樹の「4月のある晴れた朝に100パーセントの女の子に出会うことについて」という話を読みました。

 

 この小さな小説と出会ったのは30年以上も前で、おそらくもう数十回も読み返しているのだけれど、いつ読んでもみずみずしく、小さな心のゆらぎを感じます。

 

 この主人公のように僕ももう、ちゃんと地下鉄を乗り換えたり、郵便局で速達を出したりできるようになるのと引き換えに、かつて100パーセントの女の子に出会ったことがある、という大切な記憶さえも失ってしまって、二度と取りもどせないのだろう・・・。

 

 初めて読んだとき、そう感じて心臓がキリリとしたことを、つい昨日のように思い出してしまうのです。

 

 

それにしても、なんて美しくて切なくて、それでいて軽やかでユーモラスな小説なのだろう。

 当時は村上春樹が今のような大作家になるなんて夢にも思っていませんでしたが、まだ駆け出しのころの、こんな短いストーリーにも「らしさ」がたくさん詰まっているなぁと思います。

 しかもその表現が、まだ甘いというか、ゆるい感じがして、それがまた初々しくて素敵なのです。