東京でも桜が開花し、卒業式シーズンももう終わり。
うちの息子も今月、高校を卒業した。卒業式に出て奇妙な感覚に襲われた。
「これは子どもの葬式なのだな」と。
心の中で子どもは死ぬ。
卒業式とは親が子どもの死に立ち会う場だ。
息子の高校は、詩人の谷川俊太郎氏の卒業した学校(ご本人は学校が嫌いで、戦後の混乱期だったこともあり、ロクに登校していなかったらしい)だ。
1968年の卒業生の要請を受けて、彼が「あなたに」という詩を創作して贈った。
以来、半世紀近く読み継がれてきており、この日も式のラス前に演劇部の生徒が朗誦した。
長いので、最後のフレーズのみ引用してみる。
あなたに「火のイメージ」を贈り、「水のイメージ」を贈り、最後に「人間のイメージ」を贈る、というつくりだ。
あなたに
生きつづける人間のイメージを贈る
人間は宇宙の虚無のただなかに生まれ
限りない謎にとりまかれ
人間は岩に自らの姿を刻み
遠い地平に憧れ
泣きながら美しいものを求め
人間はどんな小さなことにも驚き
すぐに退屈し
人間はつつましい絵を画き
雷のように歌い叫び
人間は一瞬であり
永遠であり
人間は生き
人間は心の底で愛しつづける
――あなたに
そのような人間のイメージを贈る
あなたに
火と水と人間の
矛盾にみちた未来のイメージを贈る
あなたに答は贈らない
あなたに ひとつの問いかけを贈る
けっしてうまい朗誦ではなかったが、おめでたさなど蹴飛ばすような圧倒的な言葉に、会場は神聖な空気に包まれた。まさしく葬式にふさわしく。
親の心の中で、子ども時代の子どもは死んだ。
子供はそんなことは知らない。彼らには前しか見えていない。
自分もそうだった。
中学も高校も卒業式のことなんてほとんど憶えていない。
ただ未来へ進む。
でも、大人は、親は、そうはいかない。
後ろを振り返って、思い出を愛つくしんで、心置きなく泣いて、胸に刻みつけて、やっと前を向いて進める。
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