クラゲ切りとは、要するに石切りのクラゲ版ということです。
うちの小僧くんは石切りが得意です。
で、石切りは川、海ならクラゲで、とうわけなのです・・・・
といわれても、「何のこっちゃ?」と、わけがわからないよという声が聞こえてくるので解説します。
うちの小僧くんがチビの頃は毎年、鎌倉や湘南の海へ行っていた。
彼の仲のいい友達も含め、3~4人のガキどもをまとめて連れて行った。
小学4年生くらいまで夏休みの恒例行事だった。
その日はまだ8月初旬だった。
江ノ電で終点の鎌倉から三つ手前の「由比ガ浜駅」に到着。いよいよ海だ!
波もほどほどにあり、ガキどももサーフィンの真似事などをして大はしゃぎ。
けれども僕は入ってしばらくすると異変を感じた。
そう、クラゲである。異変とはミズクラゲがうようよいることだった。
ところが、小僧たちはこのクラゲたちを捕まえて、クラゲ切りを始めた。
クラゲを平たい石に見立て、海面へ向かって石切りのごとく投げるのである。
「クラゲが石のように跳ねるわけねーだろ」と、ふつう思うが、しかし!
小僧がサイドスローから繰り出したクラゲは、ピッピッピッピツピッと、5回ほど(スピードが速くて数え切れない)海面を跳ねたあと、海中に沈んだ。
「まさか、あり得ねー」という光景が目の前で展開する。
それはTVゲームの黎明期を飾った、かのスペースインベーダーが宇宙空間ををスキップしているかのようなするかのような動きだった。
ガキどもは次々とクラゲを切りまくり、多いときには7回でも8回でも海面上をクラゲが跳ねた。
そう言えば、いとうひろしの「おさるのまいにち」というお話で、南の島で平和に暮らすおさるたちが毎日、バナナ食って、おしっこして、カエル投げをして遊ぶ・・・・というフレーズがあったが、あの「カエル投げ」というのはこれと似たもんだ、とこのとき、初めてリアルに理解した。
のんびりぷかぷか浮いていたクラゲにしてみればいい迷惑だと思うが、意外と、滅多にないスリリングな体験ができて楽しかったのかもしれない。
そのあたりの気持ちはクラゲに聞いてみないと分からない。
というわけで遊んで、帰りも江ノ電に乗り、夕暮れの海に別れを告げて帰宅。小僧とその友だちは家に泊まり込んで大騒ぎの状態だった。
子供らを連れて海に出かけたのは、これが最後だったのではないかと思う。
というわけで・・・いま振り返ってもすごい。
「うちの子、天才!」と親ばか丸出しで叫びたいくらいでした。
「クラゲ切りワールドカップ」があったら絶対優勝できると、その時思いました。
この類まれなる才能を伸ばすため、僕は「クラゲ切り養成ギプス」を開発しようと思ったくらいです。
それはさておき、やはり、どんな子どもにも必ず一つは秀でた才能があるものです。
問題はうちの場合、それが「クラゲ切り」という、世の中で何の役にも立たないようなものだった、ということです。
でも、あんなエンターテインメントは一度きり。
もう生涯見られないと思います。
あれで少なくとも親父には十分に親孝行してもらったので、あとは自分のために生きてほしい。
ところで万が一、これ読んで自分もクラゲ切りをやってみようと思ったら、クラゲは白いミズクラゲですよ。
毒のあるクラゲには注意してくださいね。
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