以前、仕事の資料として「日本映画史」(佐藤忠男・著/岩波書店)を読んだ。全3巻(増補版を含めると全4巻)、それぞれ約500ページ。
相当なボリュームだが、そんな長さを感じさせない素晴らしい本です。
特に感動的だったのは、明治・大正・昭和初期の日本の映画界がすごく開放的な「開かれた世界」であった点です。
今では当たり前のことだが(いや、そうでもないかも知れないが)、低学歴のはみ出し者と高学歴のエリートとが同じ現場で協同作業を出来た。そんな自由な職場は当時は他になかったといいます。
映画作りという仕事が魅力のオーラを放ち、雑多な人々を撮影現場に集めた。
雑多な人々の雑多な知識と感性が入り乱れた。
歌舞伎・大衆演劇・講談などの伝統文化、純文学や新劇などの近代西洋文化、そしてもちろん、欧米先進諸国の映画の影響……
それらがすべて渾然一体となって練り上げられた日本映画は、世界の中でもユニークな、独自の文化として発達したのです。
そして、黄金時代がやってきます。
昭和20年代半ば~昭和40年ごろ(1950年頃~60年代半ば)。
振り返ればわずか15年ほど。
それは戦後の復興期から高度経済成長へ向かう時代とぴったり重なり合います。日本社会がまさしく昇竜の勢いで空高く上っていった時代だったのです。
映画は豊かさを獲得しようと日夜頑張る日本人を叱咤激励し、泣かせ笑わせ、夢と希望を育んだのです。
団塊の世代の人たちまではそれを覚えていますが、1960年生まれの僕の世代も含め、もう日本人の半分以上は、その黄金時代を肌で体験していないのです。
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