「タリラリランのコニャニャチハ!」というわけで、青いランドセルを背負ったヘンなおじさんとして、5月も小学校に参上した。
この日のお相手は純真無垢なる1年生。小学生は学校生活を送るうちに、だんだんおとなの血が混じってくる。
4月の2年生は1年間学校で過ごしたので、多少、遠慮だの気遣いだのを知っているが、こちらは入学1ヵ月の、バリバリ「こども純血状態」。なので、リアクションはいい意味でも悪い意味でもダイレクトでビビッドである。
教室に入るなり「お笑いの人!」と、お声が掛かる。
そりゃ確かにお笑いの人にしか見えない。
そうですよ、お笑いの人がいるのはテレビや映画の中だけではない。
近所にもタリラリランな変なおとな(変質者とか、犯罪系という意味ではないですよ。念のため!)はいっぱいいる。
いろいろな人たちがいて同じ町でいっしょに暮らしながら世の中は回っている……
それを知るだけでも立派な勉強だ。
と、あれこれ1年ぼっこの方々にリアクションをしたり、青いランドセルに関する逸話を話したりしていると、あっという間に朝の短い読書タイムが過ぎてしまう。
少々焦り気味に肝心の絵本へ。
●エンターテイメンタブルな絵本
「パパ、お月さま とって!」(エリック=カール:さく、もりひさし:やく)は僕の大好きな本だ。
人気の高いエリック=カールさんの絵本の中でも1,2を争う名作だと思っている。
美しい、不思議、優しい、可愛い、面白い……
月並みかも知れないけど、こういう形容詞がすべて当てはまるのだ。
ちょっとした仕掛けがあって、タテに伸びたり、ヨコに伸びたり、拡大したり…と、
ビジュアル的にもエンターテイメンタブルなので、ちょっとお芝居的にも楽しめる。
幼少の子どもたちには特におすすめだ。
●ひとつぶで七度おいしい
そして、おとな目線で見ると、いろいろ深読みも出来る。
月の満ち欠けの話の入口として理科系でも使えるし、哲学の物語としても捉えられる。
ここから父親論だって展開できる。
一冊でいろんな味が楽しめる絵本なのである。
とはいえ、1年ぼっこの方々は、大きくなったり小さくなったりする月や、それを娘にプレゼントするパパのお話を単純に面白がってくれた模様。
10分足らずの時間だったけど、しっかり楽しんでくれてこんなにうれしいことはない。
●読後の絵本効果
読後、ちょっと難しいことを考えた。
絵本を声にして読むというのは、かなり重層的な体験である。
まず、この物語世界を体験できる。
理屈では考えられないファンタジックなストーリーなのだが、脳や神経を全開にすれば、登場人物たちの心情や空間の感触を感じられる。
たとえば、この話の場合は、月に向かって登っていくパパになって、高い空の清廉で、ちょっとひんやりとした空気を肌で感じられるのだ。
また、この本はうちの小僧さんがおチビだった時から繰り返し読んでいた本なので、当時(今から10年ほど前)の小僧さんの顔やしぐさ、寝転がっていた布団の感触などもかなり鮮明によみがえってくる。
そして、またどこか違う場所で読む機会があれば、この日の教室の空気や、1年生たちの顔も思い出すかも知れない。
逆に1年生たちは、大きくなって、どこかで次の世代の子どもたちにこの本を読む機会を得れば、同じようにこの日のことを思い出してくれるかも知れない。
いろんな意味で、こうしてランドセルを背負って絵本を読みに来るという体験は、貴重な自分の資産を作っているようにも思えるのだ。
2011・5・12 THU
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